朝の申し送りで「昨日より手がむくんでいます」と報告が上がる。見ると、指がパンパンに張っている。
とりあえずさすってみようか。でも、さすっていいものなのか。むしろ悪化させないだろうか。手が止まった経験はありませんか。
私は作業療法士として16年間、高齢者の手に触れてきました。その立場から、まず結論をお伝えします。
さすってよいむくみと、絶対に触れてはいけないむくみがあります。その見分け方さえ知っていれば、迷わず動けます。判断のしかたから順にお伝えします。

さすってよいむくみ・いけないむくみ
ケアの手順より先に、これを覚えてください。見分けができれば、事故を防ぎながら安全に楽にしてあげられます。
触れずに報告すべき8つのサイン
⚠️ 次のサインがある場合、ケアは行わず医療職に報告してください
- 片方の手・腕だけがむくんでいる
- むくんだ部分が赤い、熱を持っている
- 触れると強い痛みを訴える
- 短期間で急にむくみが強くなった
- 顔やまぶたにもむくみが出ている
- 息切れがある、横になると苦しがる
- 皮膚が張って光っている、水ぶくれや傷がある
- 尿の量が明らかに減っている
これらは、むくみが手だけの問題ではないことを示すサインです。マッサージで対応する話ではありません。
片手だけか、両手か
8つのサインのなかでも、いちばん重要なのが左右差です。
| 状態 | 考えられること | 対応 |
|---|---|---|
| 両手が同じようにむくむ | 動かないこと、全身の状態、薬の影響 | 原因を確認したうえでケア |
| 片手だけむくむ | 血管や皮下の炎症、リンパの流れの障害など | ケアせず報告 |
両手のむくみは全身の状態を映していることが多く、片手だけのむくみはその腕に何かが起きている可能性を示します。
片側だけのむくみを、その場のマッサージで解決しようとしてはいけません。状態を悪化させる危険があります。
押したへこみでわかること
手の甲を親指で5秒ほど、やさしく押してみてください。指を離したあとの状態を見ます。
- すぐ戻る … むくみは軽い状態
- へこみがしばらく残る … 水分が溜まっている。記録して経過を見る
- へこみが深く、なかなか戻らない … 医療職へ報告
- 硬くて押してもへこまない … 別の原因が考えられる。報告
この観察は数秒で終わります。「なんとなくむくんでいる」ではなく、押した跡がどうだったかまで記録できると、報告の質が変わります。
「むくんでます」より「右手だけ、押すと5秒くらいへこみが残ります」のほうが、受け取る側は判断できます。この差は大きいです。
高齢者の手がむくむ3つの原因
危険なサインがないことを確認できたら、次は原因を考えます。原因によって、ケアの意味が変わります。
①動かないこと・手が下がったままであること
いちばん多い原因がこれです。
手足の血液やリンパ液は、心臓のポンプだけで戻っているわけではありません。筋肉が縮んだりゆるんだりする動きが、ポンプの役割を果たしています。
寝たきりや車椅子で過ごす時間が長く、手を動かす機会が減ると、このポンプが働きません。さらに手が体より低い位置に垂れたままだと、重力で水分が指先に溜まっていきます。
この場合のむくみは、手の位置を変えるだけで軽くなることがあります。マッサージより先に、まず腕の置き場所を見直してみてください。
②全身の状態が手に出ている場合
むくみは、心臓・腎臓・肝臓・甲状腺などの働きが落ちたときにも現れます。また、食事量が減って栄養状態が悪くなると、血液中のたんぱく質が不足してむくみが出ます。
高齢の方の場合、もともとの心臓や腎臓の機能低下に、筋力低下が重なって、むくみが目立ちやすくなる傾向があります。
⚠️ 足だけでなく顔や手にもむくみが出ている場合は、内臓の働きが関係している可能性があります。看護師や医師への報告が先です。
③服用している薬の影響
血圧の薬、痛み止め、ホルモン剤など、薬の副作用としてむくみが出ることがあります。
「最近むくむようになった」という場合、薬が変わったタイミングと重なっていないか確認してみてください。自己判断で薬を止めることはできませんが、気づいたことを医師や薬剤師に伝えるのは、現場にいる人にしかできない仕事です。
現場でできるむくみケアの3ステップ
危険なサインがないことを確認したうえで行うケアです。
STEP1:手の位置を心臓より高くする
実はマッサージより、この一手のほうが効きます。
- クッションや枕を使い、前腕から手先までを支える
- 手先が肘より高くなるように置く
- 肩や肘に無理な角度がつかないか確認する
- 15〜30分ほどその姿勢を保つ
ポイントは手先だけを高くしないことです。腕全体を支えないと、肘や肩に負担がかかります。
STEP2:指先から心臓へ向かって流す
方向を間違えると意味がありません。流す向きは、必ず指先から心臓へ。
- 手を包んで温める(30秒)
- 指を1本ずつ、指先から付け根へ向かってやさしくなでる
- 手の甲を、指の付け根から手首へ向かってさする
- 手首から肘へ向かって、腕全体をゆっくりなでる
- 2〜4を3周ほど繰り返す
圧は皮膚が軽く動く程度で十分です。むくんだ皮膚は薄く伸びていて傷つきやすいので、なでる感覚で行ってください。
⚠️ 腕の付け根や脇の下を強く圧迫しないでください。手先から流した水分の通り道をふさいでしまいます。
STEP3:保湿して皮膚を守る
むくんだ皮膚は、内側から張って薄くなっています。乾燥すると、わずかな摩擦で切れてしまいます。
ケアの最後には、必ずクリームやオイルで保湿してください。これは仕上げではなく、皮膚トラブルの予防そのものです。むくみのある方の皮膚は、一度傷つくと治りにくく、感染の入り口になります。
やってはいけない4つのこと
- 強く揉む:皮膚が薄くなっているため、内出血や皮膚剥離を起こす
- 心臓から指先へ向かってさする:流したい方向と逆。むくみが増す
- 原因を確かめずにケアだけ続ける:内臓の異常を見逃すことになる
- きつい衣類や時計をそのままにする:締めつけがむくみを悪化させる
4つ目は見落とされがちです。むくむ前のサイズで着せている衣類が、そのまま原因になっていることがあります。袖口、腕時計、点滴のテープ。ケアを始める前に一度確認してみてください。
ケアより効く日常の3つの工夫
1日1回のケアより、24時間の過ごし方のほうが結果を左右します。
- 腕の置き場所をつくる:車椅子ならアームレストにクッション、ベッドなら腕の下に枕。手が垂れ下がる時間を減らす
- 握って開く動きを促す:自分で動かせる方には、テレビを見ながらグーパーを。1回10秒でも筋肉のポンプが働く
- 冷やさない:手先が冷えると血流が落ちる。室温と、袖から出た腕の露出を確認する
特別な時間を取らなくても、腕の下にクッションを一つ入れるだけで変わることがあります。まずそこからで十分です。
(※おさる先生が現場でむくみのある方に関わった際のエピソードを、ここに追記してください)
まとめ
むくみのケアは、手技そのものより「見分けること」が大事です。そこさえ押さえれば、安全に楽にしてあげられます。
⚠️ 本記事はリラクゼーションとケアの範囲での情報提供です。医療行為や治療に代わるものではありません。むくみの原因の判断や治療は医師が行うものです。気になる変化があれば、必ず医師・看護師に相談してください。
手技を体系的に学びたい、根拠を持ってケアできるようになりたいという方は、こちらもどうぞ。
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