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認知症の方へのハンドマッサージ|落ち着かない夕方にできること

夕方4時を過ぎたころ、そわそわし始める。「家に帰らないと」と立ち上がる。声をかけても、言葉が届いている感じがしない。

言葉を尽くすほど、かえって不穏が強くなることもあります。何を言えばいいのかわからなくなる時間帯です。

私は作業療法士として16年間、認知症のある方の手に触れてきました。その経験からお伝えしたいことがあります。

言葉が届かなくなっても、手からの情報は届いています。この記事では、落ち着かない時間帯に手を使う方法を、行うタイミングから拒否されたときの対応まで具体的にお伝えします。

記事を読んでわかること

  • なぜ夕方に落ち着かなくなるのか
  • 言葉が届かない方に、手なら届く理由
  • いつ行うと効果が出やすいのか
  • 実際の手順と、声のかけ方
  • 拒否されたときにどうするか
  • やってはいけないこと

この記事を書いた人 おさる先生|手をこよなく愛する作業療法士

なぜ夕方に落ち着かなくなるのか

まず、この時間帯に何が起きているかを整理します。ここを理解していると、関わり方が変わります。

夕暮れ症候群という現象

認知症のある方が、夕方から夜にかけて落ち着かなくなることを夕暮れ症候群と呼びます。帰宅願望、そわそわした動き、不安の訴え、ときに攻撃的な言動として現れます。

この時間帯に重なりやすい要因

  • 外が暗くなり、視覚からの情報が減って不安が増す
  • 夕方は「帰る時間」だった記憶がよみがえる
  • 一日の疲れが出て、判断する余力が落ちている
  • 施設や病棟が申し送りなどで慌ただしくなる

大切なのは、これが「わがまま」でも「困った行動」でもないということです。本人のなかでは、帰るべき理由がはっきりあります。

なぜ声かけだけでは届きにくいのか

不安が強まっているとき、言葉を処理する余力そのものが落ちています。説明すればするほど情報量が増え、かえって混乱を招くことがあります。

だからこそ、言葉以外の伝え方をひとつ持っておくと、対応の幅が変わります。

なぜ手なら届くのか

感覚論ではありません。手には、根拠のある理由があります。

手は脳の広い範囲とつながっている

手には、脳の感覚野・運動野の約25〜30%が割り当てられています。体のなかでも突出した割合です(ホムンクルス理論と呼ばれる、脳の中の身体地図の考え方です)。

つまり手に触れることは、脳の広い範囲に同時に信号を送っている行為になります。言葉の理解が難しくなっても、この経路は比較的保たれます。

やさしく触れると起こる変化

ゆっくりとやさしく触れられると、オキシトシンというホルモンが分泌されます。安心感をもたらし、不安をやわらげ、副交感神経を優位にする働きがあります。
「手を握ると落ち着く」という現場の実感には、こうした裏づけがあります。

触れることによる作用の仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。

触れるケアの理論を知る
タクティール®ケアとは|効果・やり方・認知症への活かし方

いつ行うと効果が出やすいか

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

落ち着かなくなってからでは遅い

多くの方が、そわそわし始めてから声をかけ、手を取ろうとします。しかしその段階では、すでに本人のなかで「帰る」という目的ができあがっています。

狙うのは、その一歩手前です。落ち着かなくなる時間の30分から1時間前に、先回りして関わります。

まず、その方が落ち着かなくなる時間を記録してください。
「だいたい夕方」ではなく「15時50分ごろから」まで把握できると、先回りできるようになります。数日つけるだけで、驚くほど規則性が見えてきます。

タイミング別の使い分け

タイミング目的効果の出やすさ
落ち着かなくなる30〜60分前不安が立ち上がる前に安心をつくる◎ 最も推奨
そわそわし始めた直後気持ちの矛先をそらす○ 間に合うことがある
強く興奮しているとき× 行わない
就寝前入眠を助ける○ 習慣にしやすい
同じケアでも、行う時間で結果が変わります
おさる先生

興奮しているときに手を取ろうとするのは、逆効果になりやすいです。触れられること自体が刺激になってしまう。落ち着いているときにこそ、触れておく意味があります。

実際のやり方

手技そのものより、入り方が9割です。順を追って説明します。

STEP1:正面ではなく、となりに座る

正面に立つと、見下ろす形になり圧迫感が生まれます。となり、または斜め前に座ってください。目線の高さをそろえるだけで、警戒がゆるみます。

STEP2:手を「取る」のではなく「差し出す」

いきなり相手の手をつかまないでください。自分の手のひらを上に向けて、そっと差し出します。

相手が乗せてくれたら、そこから始めます。乗せてくれなければ、その日はやめておく。主導権を相手に渡すことが、この関わりの土台です。

STEP3:ゆっくり、一定のリズムで

  1. 両手で相手の手を包み、しばらくそのまま温める(30秒)
  2. 手の甲を、手首に向かってゆっくりなでる(10往復ほど)
  3. 手のひらを、親指の腹で円を描くようにやさしくほぐす
  4. 指を1本ずつ、根元から先へ向かってやさしくなでる
  5. 最後にもう一度、両手で包んで終わる

速さの目安は、1往復に3秒ほどかけるくらいです。想像よりずっとゆっくりで構いません。速い動きは刺激になり、落ち着きません。

時間は5分から10分で十分です。長ければよいものではありません。

声のかけ方

沈黙を埋めようとしなくて構いません。話すなら、説得ではなく、いまここの話にしてください。

  • ○「あたたかい手ですね」
  • ○「気持ちよかったら教えてください」
  • ○「きれいな手をされていますね」
  • × 「もう遅いから帰れませんよ」
  • × 「さっきも同じこと言いましたよね」

帰宅願望を否定しないことは、どの対応法にも共通する原則です。手に触れながらであれば、否定せずに話題を移しやすくなります。

拒否されたときの対応

手を引っ込められる、払いのけられる。よくあることです。ここでの反応が、次につながるかどうかを決めます。

  • すぐ引く:「失礼しました」と手を離す。粘らない
  • となりに座ったままでいる:触れなくても、そばにいることに意味がある
  • 自分の手を先に見せる:クリームを自分の手に塗ってみせると、興味を持たれることがある
  • 別の人が試す:相手との関係性で結果が変わる。担当を替えてみる
  • 日を改める:今日できなくても、明日できることがある

拒否されたときに引き下がれるかどうかが、次に手を出させてもらえるかを決めます。一度無理をすると、その記憶は残ります。

おさる先生

出来事は忘れても、そのとき感じた不快さは残ることがあります。だから「今日はやめておく」判断が、長い目で見ていちばん効きます。

やってはいけない5つのこと

  1. 強く興奮しているときに触れる:刺激が増え、逆効果になる
  2. 後ろから急に触れる:驚かせてしまう。必ず視界に入ってから
  3. 拒否されても続ける:不快な記憶が残り、次から拒まれる
  4. 速く、強く動かす:落ち着かせる目的なら、ゆっくり軽くが原則
  5. 落ち着かせる道具として使う:「静かにさせるため」の意図は伝わります

5つ目が、いちばん大切かもしれません。目的が「管理」になった瞬間、この関わりは機能しなくなります。不安をやわらげたい、という気持ちのほうが手から伝わります。

⚠️ 次の場合はケアを行わず、医療職に相談してください

  • 発熱している、体調がすぐれない
  • 手や腕に傷・湿疹・炎症がある、腫れている
  • これまでと明らかに様子が違う、急に落ち着かなくなった
  • 痛みを訴えている

とくに「急に」落ち着かなくなった場合は要注意です。脱水、感染、便秘、薬の影響など、体の不調が背景にあることがあります。認知症の症状と決めつけず、まず体を疑ってください。

続けることで見えてくるもの

1回で劇的に変わることは、あまりありません。この関わりの価値は、積み重ねたときに出ます。

  • 毎日同じ時間に行うと、それが日課として定着していく
  • 「この人は手をさわってくれる人」という認識が生まれる
  • 手に触れながらだと、話が出てくることがある
  • 皮膚や爪の状態を、毎日確認できる機会にもなる

4つ目は見落とされがちですが、実務的に大きな利点です。手に触れる習慣があると、傷やむくみ、爪の伸びに早く気づけます。

まとめ

声かけが届かない時間帯に、もう一つ手段を持っておく。それだけで、夕方の景色が変わります。

記事のまとめ

  • 夕方の不穏は、暗さ・記憶・疲れ・環境が重なって起こる
  • 不安が強いときほど言葉は届きにくい。手からの情報は残りやすい
  • 落ち着かなくなる30〜60分前が最も効果的。強く興奮しているときは行わない
  • 正面ではなくとなりに座り、手は取らずに差し出す
  • 1往復3秒のゆっくりした動きで、5〜10分
  • 拒否されたらすぐ引く。粘らないことが次につながる
  • 「静かにさせる道具」にしないこと
  • 急に落ち着かなくなった場合は、体の不調を先に疑う

⚠️ 本記事はリラクゼーションとケアの範囲での情報提供です。医療行為や治療に代わるものではなく、認知症の治療効果を保証するものでもありません。症状や対応に迷う場合は、必ず医師・看護師にご相談ください。

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おさる先生

作業療法士として、16年間「手」と向き合い治療。たくさんの手に触れ、支え、癒される。一つとして同じ手はない。 当ブログでは、手が持つ力、“手当て”という原点、そして日々の暮らしに活かせるハンドケア・ハンドセラピーの知恵を発信。 身体心理学者・山口創さんの著書『手の治癒力』は、原点となった一冊。 “手は、人を癒すために最も身近にある道具。” その魅力を、あなたの日常にも届けたい。

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