ある日、脳梗塞の後遺症で言葉が出にくくなった方の手を、いつものように筋の走行など学んだ知識をもとにほぐしていました。会話はほとんどありません。ただ黙って、手に触れながらリラクゼーションをしていました。
しばらくして、その方の肩からすっと力が抜けました。そして、途切れ途切れではあるけれど、昔の話を話し始めたのです。
私は何も特別なことはしていません。もちろん解したので手の動きは良くなりました。それだけで、言葉より先に届くものがある——16年間この仕事を続けてきて、私が何度も目にしてきた光景です。
はじめまして、おさる先生です

国家資格を取得してから16年、ひたすら人の手を診てきました。今も現場で治療を続けています。
「なぜ手ばかり診ているんですか」と聞かれることがあります。答えはとてもシンプルです。
人の手が、好きだからです。
16年も同じことを続けられる理由なんて、案外それくらいのものです。
どんな手にも、魅力があります
これまで、数えきれないほどの手に触れてきました。
まだ自分の手の存在すら分かっていない、赤ちゃんの小さな手。毎日水仕事をしてきた、あかぎれだらけの手。何十年も道具を握り続けて、指の形が変わってしまった手。もう力が入らなくなった、細くやわらかい手。
ひとつとして同じ手はありません。そして触れるたびに思うのです。手には、その人が生きてきた時間が全部残っているのだと。
今でも患者さんの手を診ながら、「この方はどんな人生を歩んでこられたんだろう」と想像しています。手を診るのは、その人を知ることでもあるんです。
きれいな手だけが魅力的なわけではありません。使い込まれた手には、使い込まれた手にしかない美しさがあります。
一冊の本が、私の見方を変えました
普段はもっぱら専門書や論文を読んでいます。仕事柄そうなってしまうのですが、正直に言えば、どれも読み進めるのに気力が要ります。
そんな中で出会ったのが、身体心理学者・山口創さんの『手の治癒力』という本でした。
冒頭に、こんな一文があります。
あなたは辛い時や悲しい時、傷ついた時にそっと手をあててもらい、肩を抱かれて救われた経験はありませんか。
山口創『手の治癒力』より
読んだ瞬間、思い当たる場面が浮かんだ方も多いのではないでしょうか。私もそうでした。
手で触れられただけで「ひとりじゃない」と伝わる。言葉も理屈もいらない。あの感覚は、確かに誰の記憶にもあるはずです。
AIには、まだ届かない場所がある
技術はすさまじい速さで進んでいます。調べものも、相談ごとも、いまや画面の向こうで完結してしまう。
けれど、どれだけ便利になっても、触れられることでしか受け取れないものがある。それは16年間、手を通して人と関わってきた私の実感でもあります。
温度。圧。速さ。ためらい。手から伝わる情報は、想像よりずっと多いのです。
手は、誰でも「武器」にできます
ここからが、いちばんお伝えしたいことです。
「手で人を癒すなんて、特別な訓練を受けた人にしかできない」——そう思っていませんか。
違います。その力は、あなたの手にもすでに備わっています。
足りないのは才能ではありません。ほんの少しの知識です。
筋肉の流れが見えると、手つきが変わる
私が現場で一番実感しているのは、これです。
「なんとなくさする」のと、「どこに何が走っているかを思い浮かべながら触れる」のとでは、受け手の反応がまったく違います。同じ力、同じ時間なのにです。
手の筋肉は、指先から手のひら、前腕、肘、肩甲骨、そして首へとつながっています。
だから手をほぐすと、肩が軽くなる。このつながりをイメージできるだけで、ケアの質は変わります。
医学部に通う必要も、何年も修行する必要もありません。必要なのは、正しい知識を少しだけ知ること。それだけで、あなたの手は自分自身と大切な人を守れるようになります。
私が16年かけて学んだことのうち、日常のケアに本当に必要な部分は、そう多くありません。その「必要な部分」を、できるだけわかりやすく届けたいと思っています。
このブログでお伝えしていること
専門知識を、専門家以外の方に届ける。それがこのブログの役割です。
読んでくださる方の目的は、それぞれ違っていいと思っています。
自分の手をいたわりたい方。家族を癒せるようになりたい方。学んだことを仕事にしたい方。どこから読み始めても、そして途中で目的が変わっても、まったく構いません。
もし、その先へ進みたくなったら
手のケアを学ぶうちに、「これを仕事にできないだろうか」と思う方がいます。実際、そういうご相談をいただくことも増えました。
資格を取る、自宅でサロンを開く、いまの仕事に活かす。道はいくつもあります。ただ、情報が散らばっていて、最初の一歩が見えにくいのも事実です。
そのときは、私が調べてきたことが少しはお役に立てるかもしれません。急ぐ必要はありませんし、必ずしも進まなければいけないものでもありません。興味が湧いたときに、のぞいてみてください。
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手のケアを仕事にしたい人が最初に読む記事【完全ガイド】
最後に
ひとつだけ、質問させてください。
あなたは、自分の手が好きですか。
「あまり好きじゃない」と答える方が、実は大半です。荒れているから。シミがあるから。きれいじゃないから。
でも、その手は毎日あなたのために働いてきた手です。誰かのごはんを作り、誰かの荷物を持ち、誰かの背中をさすってきた手です。
まずは、その手をいたわるところから始めてみませんか。
自分の手をやさしくできる人は、きっと誰かの手にもやさしくできます。
あなたの手にどんな力があるのか。このブログを通して、少しずつお伝えしていきます。
どうぞ、ゆっくり見ていってください。
おさる先生